ハングパラの痛快青春小説です。フィクションです。
登場人物
・ハイエースの「ビンゴ」
・ヤマダ(男)主人公。ハング。待ちに待った初飛びの日、ある事件に巻き込まれる。
・カワカミ(男)パラ。山上げドライバー。異常に速く正確なドライビングが持ち味。
・サワ(女)ハング。ヤマダの先輩。カワカミと仲が良く、サワ自身も運転がうまい。煽るのが好き。
・ニシ(男)ハング。ヤマダと同じ大学のOB。安全志向。解説役。
・モテグ(女)パラ。ヤマダの同期。はしゃぐ。
・ヤマタイラ(男)ハイキングをしている人。伝説の目撃者。
・プランター(男)寡黙な外国人。異常に速い。
・スーザン(女)謎の外国人。異常に速い。
・XYZ(男)謎の外国人。異常に速い。
以下、本文。
11月のはじめ、夕焼け空になりつつある午後 4 時のこと。ひとりのハング講習生が初飛びのために山上げバンに乗り込んだ。
「機体も積んだし、無線も持った。ハーネス、ヘルメット、タイヤにスピードメーター…うん、大丈夫だ。」
慌ただしく準備を済ませたヤマダは、すでに動き出しているハイエースの「ビンゴ」の中で再度自分の持ち物の確認をした。
「やっぱり緊張してる?ねぇ緊張してる??アタシは緊張したよ~!」
満面の笑みで3列目から身を乗り出してヤマダに話しかけているのは、ヤマダの同期でパラのモテグだ。彼女も2週間前に初飛んだばかりだ。
「ヤマダは俺と違って落ち着いてるから大丈夫だろう。俺が初飛んだときなんか緊張し過ぎて飲み物飲みすぎちゃって、お腹壊して大変だったんだから!昔はランディングの側にトイレがあったからいいけど、今だと無いからねぇ。」
ヤマダの隣で答えたのは OB のニシだ。ヤマダが軽く笑いながら答える。
「いやぁ思ったより緊張しないですね。でもテイクオフについたらまた変わるかもですけど。」
初飛びの講習生を乗せた車内は、ちょっとしたお祭りのような賑わいと高揚感とで包まれていた。
和気あいあいとした雰囲気のまま、「ビンゴ」は峠道に入った。道が細くなる。あと20分足らずでテイクオフだ。いや、学生の中でも屈指のドライビングテクニックを持つカワカミが運転するこの「ビンゴ」なら、15分もかからず着いてしまうに違いない。
「あのさぁなんかさっきから後ろに着かれてるんですけどこれどういうことですかね飛ばしてぶっち切ってやろうか飛ばすか!」
カワカミがルームミラーと正面と助手席とを順々に慌ただしく見ながら早口で言った。
「譲んないんだ……じゃあこの先の直線で行けるっしょ!」
助手席のサワがノリノリでカワカミを煽る。
うなる「ビンゴ」のエンジン。
エンジンの回転数が上がり車内は熱気と喧騒に包まれた。だが…
「なにーッ!着いてくるぞッ!……後ろのハイエース、化け物かッ!」
カワカミが叫ぶッ!
「追いついてくるッ!ビンゴまで…10メートル…5メートル……1メートルッ!ウオォォォッ!」
サワが吠えるッ!
刹那!カーブに差し掛かったその刹那ッ!
「「「「「抜かされたッ!」」」」」
「ビンゴ」の一瞬の隙をついて謎のハイエースは前に出てきたッ!
「バカなッ!なんてテクしてやがるッ!」
歯軋りをしながらカワカミがまたしても叫ぶッ!
「キャーッ!キャーッ!」
叫ぶモテグッ!
ニシがあることに気づいたッ!
「……あれはッ!スーザンッ!」
「スーザンッ!?誰ですかッ!?」
ヤマダが涙目になりながらニシに尋ねたッ!
「伝説のッ!国籍不明のッ!女山上げドライバーだッ!」
「伝説の国籍不明の女山上げドライバー………!」
その異常な肩書きに…………ッ!
そしてその圧倒的なドライビングテクニックに…………ッッ!!
生唾を飲み込む乗員たち……ッッッ!!!
ゴ、ゴクリ……ッッ!
そのとき!ヤマダが気がついたッ!
「すでにッ!囲まれているぞォォォォォォォォッッ!!」
「「「「何ィ~ッ!」」」」
気がつけば「ビンゴ」の前後、そして真横にはハイエースがぴったりくっついていたッ!さながら「リーチ」!
謎ッ!
カワカミは冷や汗を流しながら、だが熱く燃える瞳で、乗員を守らねばという強い心をたぎらせて叫んだッ!
「どういうことだ増えたってのかッ!有り得ねぇだろファァァァッッキンッッ!」
ニシが間髪を入れず答えるッ!
「これはッ!隣につけているのは『プランタ』ーッ!伝説の国籍不明の山上げドライバーだッ!
そしてッ!後ろにぴったりつけているのが……つけているのがッ!
国籍も本名も知られていない伝説の山上げドライバー、『XYZ』だッ!」
「カワカミッ!私が機体を止めているバンドをゆるめるッ!」
サワが助手席の窓を開けながら叫んだッ!
「そうかッ!ハングを飛ばして妨害するあの技かッ!行くぞッ!」
「やめろォォォォォ!それは俺の機体だァァァァッ!」
ニシが叫ぶッ!
カワカミがブレーキを踏んだッ!
『シングルアタック』ッ!!
「ビンゴ」のキャリアから勢いよく飛び出す棒状に畳まれた機体ッ!
しかし無情にも機体はスーザンの手前に着地ッ!
「くっ…!やはりファルコン1じゃ届かないッ!」
わずかにショート……ッッ!
(中略)
夕陽に照らされたヤマダは、なんだか清々しい顔をしていた。
「ふぅ、何だかいろいろあった山上げだったな。初飛びは無事に成功した。」(完)